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水魔 Author:田中 貢太郎← Back

水魔

※(ローマ数字1、1-13-21)


 暖かな宵の口であった。微赤(うすあか)い月の光が浅緑(あさみどり)をつけたばかりの公孫樹(いちょう)の木立(こだち)の間から漏(も)れていた。浅草観音堂の裏手の林の中は人通(ひとどおり)がすくなかったが、池の傍の群集の雑沓(ざっとう)は、活動写真の楽器の音をまじえて騒然たる響(ひびき)を伝えていた。
 被官稲荷(ひかんいなり)の傍の待合(まちあい)を出た一人の女は、浅草神社の背後(うしろ)を通って、観音堂の横手に往こうとして、右側の路(みち)ぶちに立った大きな公孫樹の処まで往くと、その幹の陰に隠れていたらしい中折帽(なかおれぼう)を冠(き)た壮(わか)い男が、ひらひらと蝙蝠(こうもり)のように出て来てその女と擦(す)れ違った。と、その拍子に女はコートの右の袖(そで)に男の手が触(さわ)ったように思った。で、鬼魅(きみ)悪そうに体を左に反(そ)らしながら足早に歩いて往った。
 壮い男の往った方には女の出た待合の側(がわ)になった蕎麦屋(そばや)の塀の角(かど)があった。月の光はその塀に打った「公園第五区」と書いた札(ふだ)のまわりを明るく照らしていた。
「山西じゃないか」と、横合(よこあい)から声をかけた者があった。壮(わか)い男は耳なれた声を聞いて足を止めた。鳥打帽(とりうちぼう)を冠(き)た小柄な男が立っていた。
「岩本か、どこへ往く」
「どこと云うこともない、この辺(へん)を歩いていたところだ、君は」
「俺か、俺は彼(やつ)と逢(あ)う約束があって、やって来たが、すこし具合の悪いことが出来て、よして他へ往くところだ」
「そうじゃなかろう、投げ込みができなかったろう」
「どうして、子守(もりっこ)を追っかけてる人なんかにゃ、想像はできないよ」
「よせよ、よく山の上のベンチの傍へ来る、老婆(ばあ)さんだろう」
「野釣りなんかじゃないよ」
「じゃ、造花屋か」
「そんな下等な者じゃないと云うに、まあ好い、これから倶楽部(くらぶ)へ往ってビールでも飲みながら話そう」
 二人は笑いながら伴(つ)れだって仁王門(におうもん)から出て、区役所のほうへ折れて往き、その傍にある小さなバーへ入った。六箇ばかり据(す)えた食卓(テーブル)に十人ばかりの客が飛(とび)とびに向っていた。二人は左手の隅(すみ)の食卓(テーブル)についてビールを注文すると、顔馴染(かおなじみ)の肥(ふと)った給仕女が二つの洋盃(コップ)を持って来た。
「話してもらおうかね、今の、おっそろしい広告の物品(しなもの)は何だね」と岩本は冷笑(ひや)かすように云った。
「咽喉(のど)を潤(しめ)しておいてから……」と、山西は一口飲んで、隣の食卓(テーブル)に正宗(まさむね)の壜(びん)を二三本並べている髯(ひげ)の黒い男を気にしながら、「もとは柳橋(やなぎばし)にいた奴だよ、今は、駒形堂(こまがたどう)の傍に、船板塀(ふないたべい)に見越(みこし)の松(まつ)と云う寸法だ、しかも、それが頗(すこぶ)るの美と来てるからね」と小声で云って笑顔(わらいがお)をした。
「好いかい、また、そんな者を追っかけてて、留置場の御厄介になろうと云うのじゃないか、昨夜(ゆうべ)千束町(せんぞくちょう)の方で、あの出っ歯の刑事にあったら、山西は近比(ちかごろ)どうだって、君のことを聞いてたぜ」と、岩本も小声で云った。
「先方からお出(い)でなすったら、しかたがないじゃないか」
「春になっても留置場は寒いよ」
「どういたしまして、燃えるような緋縮緬(ひぢりめん)の夜着(よぎ)がありますよ」二人の洋盃(コップ)にビールが無くなっているので、山西はかわりを注文して、それに口を浸(つ)けながら、「もう十日待てよ、羨(うらやま)しいところを見せてやるから」
「そんなことを云うが、ほんとうかい」山西の話が平生(いつも)の話と違っているので、岩本はおひゃらかしをやめて来た。
「ほんとうとも」
「じゃ映画(フィルム)の説明をしてもらいたいな」
 二人はビールに咽喉を潤(うるお)しながら夢中になって女のことを話した。この二人は浅草公園を徘徊(はいかい)する不良の徒(と)で、岩本は千束町に住んで活動写真の広告のビラを貼(は)るのが商売、山西は馬道(うまみち)の床屋(とこや)の伜(せがれ)であった。
 次第に客がたて込んで二人の食卓(テーブル)にも洋服を着た客が来た。岩本はそれに気が注(つ)いて、体をねじ向けて帳場(ちょうば)の上の柱にかかった八角時計に眼をやった。
「や、もう十時半になった、出かける処がある」
「網を張ってるのは、どの方角だい」
「今晩は商用だよ」と云って、にやりと面疽(あばた)のある口元で笑って、帽子をなおしながら、「ありがとう」
 岩本が出て往くと、山西は給仕女を呼んでビール代を払って、そこを出ようとしたが、入口に垂れた青い帷(かあてん)をかかげながら、観音堂の裏手で投げ込んだ手紙のことを浮かべて、あの女はもう見たろうかと思った。

※(ローマ数字2、1-13-22)


 戸外(そと)はきれいな月の光に彩(いろど)られていた。もう活動や芝居がはねかけているので、人通りが多くなっていた。山西は伝法院(でんぽういん)の塀に添うて並んだ夜店の前を通って、池の方へ往った。
 彼は歩きながら、明日(あす)の晩あたりすぐ来るかも判らないぞ、……八時から九時の間……岩本などが来ていると、羨(うらや)ましてやるがなあ、などと、女の来るのを想像していた。彼は己(じぶん)の店に来る客から、区会議員をしている質屋の主人にかこわれている女が、芸人と関係して媾曳(あいびき)していると云うことを聞いたので、それを脅迫して手に入れるつもりでその場所を突きとめ、その帰りを待っていて脅迫状を投げ込んだところであった。
 ……明日(あす)から十日以内に、夜の八時から九時の間に浅草区役所の傍の×××バーへ来てください、目標(めじるし)には赤いリボンを羽織(はおり)の紐(ひも)につけております、もし来ない時には、貴方(あなた)の旦那に密告するとともに、「浅草公報」に書かします。と書いた脅迫状の文句を浮めてみて、これには困ってきっと来るだろうと思った。
 風のない静かな夜(よ)であった。池の周囲(まわり)の柳の樹(き)は枝をまっ直(すぐ)に垂れていた。闇の夜(よ)には燃えるように見える池のむこうの活動写真のイルミネーションは、月の光にぼやけて見えた。
 歩くともなしに土橋(どばし)の上まで歩いて往った山西は、ふと橋のむこうから※(「女+朱」、第3水準1-15-80)(きれい)な小女(こむすめ)の来るのを見た。それは友禅(ゆうぜん)模様の鮮麗(あざやか)な羽織を着た十六七の色の白い女であった。
 山西の眼は小女(こむすめ)に引きつけられた。小女(こむすめ)は散歩でもしているように、ゆっくりした足どりで歩いて来て、山西と擦(す)れちがったが、擦れちがう拍子に、眉と眼の間の晴ばれとした黒い潤(うるおい)のある眼で山西の顔をうっとりと見た。……伴(つ)れはと、小女(こむすめ)の後(うしろ)を注意したが、三四人の酔った労働者が来るばかりで、その伴れらしい者は見当らなかった。
 不良な山西の心が首を擡(もた)げて来た。彼は労働者の群をやり過しておいて、引返して小女(こむすめ)の後(あと)をつけて往った。労働者の群は小女(こむすめ)を追い越しながら、揮(ふ)り返って何か云い云い往ってしまった。
 小女(こむすめ)は左へ曲って林の中へ入った。微暗(うすくら)い木立(こだち)の間にはそこここに瓦斯燈(ガスとう)が点(とも)って、ぽつぽつ人が通っていた。白粉(おしろい)をつけた怪しい女も通って往った。そのあたりに飛(とび)とびに据(す)えたベンチには、腰をかけている人の細ぼそと話す声もしていた。中には蛍火(ほたるび)のような煙草の火で鼻の端(さき)を赤く見せている者もあった。小女(こむすめ)はその間を通って静かに茶店(ちゃみせ)の方へ往った。山西は一間(けん)ばかりの距離を置いてゆっくりと、そしてあたりに注意して歩いた。それは小女(こむすめ)を驚かさないためと、一つは公園を徘徊(はいかい)している刑事に睨(にら)まれないためであった。
 小女(こむすめ)の羽織(はおり)の友禅(ゆうぜん)模様は、蒼白(あおじろ)い光の燃えついているように、暗い中にはっきりと見えていた。眼をすえて好く見ると、その模様は従来見なれた花鳥(かちょう)の模様ではなかった。それは細かな線で海の藻(も)のような、また見ようによっては水の渦巻のような物を画(えが)いたものであった。
 茶店の前を過ぎて水族館の裏手の藤棚(ふじだな)の処まで往くと、傍を通っている人もないので、山西は距離を縮(ちぢ)めて往って声をかけた。
「もし、もし」
 小女(こむすめ)は歩きながら白い隻頬(かたほ)を見せた。
「どこへ往くの」
 山西は努めて優しい声で云った。小女(こむすめ)の白い隻頬がまた見えて、それが莞(に)っと笑っているように思われた。山西はもう小女(こむすめ)をぐっと掴(つか)んだように思った。
「いっしょに歩かない」
 小女(こむすめ)はまたしても隻頬を見せながら歩いた。山西はもう刑事のことも忘れてすぐ背後(うしろ)に添(そ)うて歩いた。
 小女(こむすめ)は観音堂を右にして裏手の方へ足を向けた。山西は暗い方へ己(じぶん)から往くぞ、もう締(し)めたぞ、と思った。
「君の家はどこ」
 山西はますますなれなれしく口を利(き)いた。小女(こむすめ)は男の口から一歩進んだ誘(いざな)いを待っているかのように、体をしんなりとさして歩いた。
「君の家を云っても好いじゃないの」
 小女(こむすめ)はちょっと足を止めるようにしたが、すぐ歩き出した。山西はその右の手に己(じぶん)の手をかけようとした。と、二三人の歌妓(げいしゃ)らしい女伴(おんなづれ)がむこうの方から来たので、出そうとした手をひっ込めた。
 二人はもう噴水の前に来ていた。水の噴出をやめた毘沙門(びしゃもん)の像が月の光にさらされて黄(きい)ろく立っていた。山西は見るともなしにその毘沙門に眼をやりながら、右側に並んだようになった小女(こむすめ)の手を握ろうとすると、そこには手がなかった。……おや、と思いながら眼をやると、小女(こむすめ)の姿はもうなかった。山西は驚いた。ぐるぐる体をまわして四辺(あたり)を見たが、小女(こむすめ)の姿はどこにも見えなかった。
「おかしいぞ」
 山西は堂の裏手の方へ走ったが、そこにも小女(こむすめ)の姿は見えなかった。彼はまた噴水の処へ戻って来てその周囲(まわり)を走るように探して歩いた。
「どこへ往ったんだ、彼奴(あいつ)」
 山西はその附近の林の中をぐるぐると探して歩いたが、どうしても見つからなかった。それでも彼は諦(あきら)められないので、仁王門(におうもん)の方へも往き、池の周囲(まわり)にも往って探したが、とうとう見つからなかった。

※(ローマ数字3、1-13-23)


 山西は区役所の傍の×××バーで脅迫した女の尋ねて来るのを待っていた。帳場(ちょうば)の上にかかった八角時計の針の遅遅(ちち)として動いて往くのに注意したり、入口の青い帷(かあてん)を開けて入って来る客に注意したりした。時計の長針は十時の処を指していた。
 ……もうあと十分だぞ、やって来るかなあ、と、彼は考えながら無意識に胸元(むねもと)に眼をやった。絹大島(きぬおおしま)の羽織(はおり)に著(つ)けた茶の平紐(ひらひも)の右の附け根に結びつけた赤いリボンが花のように見えた。彼はその眼をまた入口の方へやった。セルの袴(はかま)を穿(は)いた背の高い学生が出て往くところであった。……ついすると、待合(まちあい)へ往っていて、婢(じょちゅう)でも呼びによこすかも判らないぞ、と、彼はまた思った。
 昨夜(ゆうべ)噴水の傍(そば)で見失った小女(こむすめ)のことがまたしても浮んで来た。彼の心は往くともなしにそのほうへ往った。青い帷(かあてん)にするような友禅(ゆうぜん)模様の羽織と、くっきりと白い顔が見えるように思われた。……それにしても、どうしていなくなったのだろう、まさか消えて無くなったではあるまいが、と、彼は不意に消えたようにいなくなった小女(こむすめ)の奇怪な挙動を考えてみた。
 彼は椅子の手擦(てすり)へ凭(もた)せた隻手(かたて)の甲の上に、口元に黄金(きん)を光らした頬(ほお)を斜(ななめ)に凭せるようにしていた。と、時計が九時を打った。……もう九時になったか、と、時計の方へやった眼をまた入口の方へやった。青い帷(かあてん)は惰(だる)そうに垂れて、土室(どま)の中に漂うた酒と煙草の匂(におい)を吸うていた。
「山西さんどうしたの、今晩はいやにすましてるじゃないの」と唇の厚い給仕女が前の方から云った。
 彼は給仕女を見たなりで何も云わなかった。彼は女の来ないのが待(まち)どおしかった。彼はももじりになって入口の方を見ていた。二人伴(づれ)の客があったが女の姿は見えなかった。
 時計は五分と過ぎ十分と過ぎた。……まだすぐは来ないかも判らないぞ、と、彼は思って来た。……もう一晩二晩待って来ないようなら、も一度投げ込みをやる必要があるぞ……。
 小女(こむすめ)のことがまた浮んだ。……今晩もいるかも判らない、そう思いだすと、小女(こむすめ)に逢(あ)いたくなって来た。彼は急いで勘定(かんじょう)をすまして戸外(そと)へ出た。戸外(そと)には昨夜(ゆうべ)のような月があった。
 彼は月の下をぞろぞろと歩いている人の中を注意して、池の傍へ往った。伝法院(でんぽういん)の塀をはなれて池の縁(ふち)へ出たところで、左の方から来る人群(ひとむれ)の中に、友禅(ゆうぜん)模様の羽織(はおり)を着た小女(こむすめ)を見出(みいだ)した。彼は静(しずか)にその方へ寄って往って、その顔をじっと見ながら微笑を送った。
 小女(こむすめ)もその顔を見返すようにしてうっとりとした眼をした。……今晩こそ見失わないぞ。
「昨夜(ゆうべ)は何時(いつ)の間に逃げたの」と云って、山西はその顔を覗(のぞ)き込むようにした。
 小女(こむすめ)は莞(にっ)と笑った顔を向けただけで何も云わなかった。
「名は何と云うの」と、山西はまた云った。
「みなわと云うのよ」と、小女(こむすめ)は小さな声で云った。
「みなわ、みなわさんだね」山西は小女(こむすめ)が可愛くてたまらなかった。
「君はどこだね」
 小女(こむすめ)は笑顔を向けるだけであった。
「いっしょに歩こうじゃないの」
 傍を擦(す)れちがうものが己(じぶん)の顔を覗(のぞ)いて往くのに気が注(つ)いた。彼はちょっと黙って歩いた。
 小女(こむすめ)は土橋(どばし)を渡って山へあがって往った。山西は上のベンチで話ができると思ったので悦(よろこ)んで跟(つ)いて往った。
「ここで休もうじゃないの」
 小女(こむすめ)は黙って山を右におりて、小さな池の中に架(か)けた橋の方へ往った。月の光は木立(こだち)に遮(さえぎ)られて四辺(あたり)は暗かった。
 橋の上に往くと山西はするすると寄って往って、その手を握ろうとした。と、何時(いつ)の間にか小女(こむすめ)の姿はなかった。
 山西はあわててその周囲(まわり)を探した。橋を渡って来た男と女の二人伴(づれ)が、橋の上できょろきょろしている山西の顔を見い見い通って往った。

※(ローマ数字4、1-13-24)


 山西は池の周囲(まわり)を歩いていた。彼はその晩も×××バーで脅迫してある女を待っていたが、十時近くになってもその姿を見せないので、また小女(こむすめ)を探しに出たのであった。
 そのうちに公園内の興行物(こうぎょうもの)が皆はねてしまった。池の周囲(まわり)の人影はすくなくなって来たが、小女(こむすめ)は姿を見せなかった。彼は山の上のベンチや林の中のベンチに腰をかけて、疲れた足を休めなどした。
 ……今晩はだめだぞ、彼は江川(えがわ)の玉乗(たまのり)の前を歩きながら呟(つぶや)いた。彼はもう池の傍をまわるのを諦(あきら)めて帰りかけたが、すぐ我家(うち)へ帰って寝る気になれないので、郵便局の傍の肉屋にいる女のことを考えながら歩いた。
 その夜(よ)は空に薄雲(うすぐも)があって月の光が朦朧(もうろう)としていた。人通りはますますすくなくなって、物売る店ではがたがたと戸を締める音をさしていた。仲店(なかみせ)の街路(とおり)も大半(おおかた)店を閉じて微暗(うすぐら)かった。山西は石畳(いしだたみ)になった仲店の前を下駄(げた)を引摺(ひきず)るようにして、電車通りの方へ歩いていた。
 ちょうど仲店の街路(とおり)の中央(なかほど)になったところで、右側の横町から折れて来て眼の前に来た女の子があった。それはかの小女(こむすめ)であった。青光(あおびかり)のするような友禅(ゆうぜん)模様の羽織(はおり)の模様がはっきり見えた。
「よ」と、山西は声をかけた。
 小女(こむすめ)は立ちどまるようにして白い顔を見せた。
「みなわさん、昨夜(ゆうべ)もまたまいたね」
 小女(こむすめ)は莞(にっ)と笑った。
「これからどこへ往くの」
 小女(こむすめ)は電車通りの方へ顔をやってみせた。
「いっしょに往っても好いの」
 小女(こむすめ)は頷(うな)ずくようにしながら歩いた。山西も跟(つ)いて歩いた。歩きながら、彼は……今晩こそ逃さないぞ、と、女に眼をはなさなかった。
 小女(こむすめ)は仲店の前を出はずれると、吾妻橋(あづまばし)の方へ向いて車道の縁(へり)を歩いた。もうおしまいになりかけた電車には、ぼつぼつ人が乗り降りしていた。山西はふと小女(こむすめ)を己(じぶん)の知っている花川戸(はなかわど)の安宿(やすやど)へ伴(つ)れ込もうと思いだした。
「私の知った処へ寄らない、饗応(ごちそう)するよ」
 小女(こむすめ)は莞(にっ)と笑って見返ったが、
「あっちへ往きましょう」
「往く処があるの」
 小女(こむすめ)は頷(うなず)いてずんずん歩いた。山西は、……この女はどうした者だろう、まさか野釣(のづり)でもあるまいが、と思った。不審であったが、強(し)いて云っては、女を恐れさすと思ったので、女の云うなりになって往った。
 二人は吾妻橋の袂(たもと)の交番の前を通って往った。入口に立っていた一人の巡査は、小女(こむすめ)と壮(わか)い男の姿をじろじろと見ていた。山西はそれがうす鬼魅(きみ)悪かった。
「足が痛くないの」と、山西は巡査に怪しい者でないと云うことを見せるために、強(し)いて親しそうな口を利(き)いた。
 二人は橋の左側を通って往った。下駄(げた)の音がからころと響いて聞えた。橋の下には鼠(ねずみ)色の絨氈(じゅうたん)を敷いたような隅田川の水が、夢の世界を流れている河のように流れていた。
 橋の行詰(ゆきづめ)にも交番があって、巡査は入口に凭(もた)れて眠るようにしていた。山西は安心した。小女(こむすめ)はその袂(たもと)を左に折れて河岸(かし)ぶちを歩いた。右側にビール会社の煉瓦(れんが)の建物が乾(ひ)からびた血のような色をして聳(そび)えていた。そこはもう人通りが無くなっていた。山西はふと小女(こむすめ)はべつに往く処はないが、人のいる処が恥かしいので、それで人通りのない方へ的(あて)もなく歩くのではあるまいかと思った。
「まだ遠いの」と云うと、小女(こむすめ)は、「もう直(す)ぐよ」と云うような顔をして男の顔を見返った。
「君の家」
 小女(こむすめ)は頭を揮(ふ)った。二人は枕橋(まくらばし)の袂(たもと)へ曲ろうとする角(かど)の処へ来ていた。そこには河岸(かし)ぶちに寄って便所があった。その前へ往くと小女(こむすめ)は不意に河岸ぶちの石垣の処まで走って往った。山西はまた逃げられてはならないとおもったので、後(あと)から跟(つ)いて往った。石垣の下にはもう満ちきった河水(かわみず)が満満と湛(たた)えていた。小女(こむすめ)は友禅(ゆうぜん)模様の羽織(はおり)の袖(そで)をひらひらとさせながら、いきなり水の中へ飛び込んだが、少しも水の音はしなかった。山西は石垣の上に立ち縮(すく)んで、女の体の水の中に消えて往くのを見せられるばかりで、どうすることもできなかった。飛ぶ時に乱れ髪になっていた女の頭髪(かみ)も見えなくなった。女の体を呑(の)んでしまった大川(おおかわ)の水は、何のこだわりもないように暈(ぼか)された月の光の下を溶溶(ようよう)として流れた。
 山西は石垣の上を右に左に駈(か)け歩いて、今に女の姿が見えるか見えるかと、水の面(おもて)を覗(のぞ)きながら両手を腰にやって兵子帯(へこおび)を解き解きしていた。
 女の姿は二度と見えなかった。と、山西は小女(こむすめ)に水の中へ飛び込まれてあわてている己(じぶん)に気が注(つ)いた。彼は人に見つかったら大変だ、と思いだした。彼は己(おのれ)の責任を忘れて、きょろきょろと四辺(あたり)を見廻した後(のち)に、解きかけていた帯をそこそこに締直(しめなお)して、枕橋の方へ曲って往った。

※(ローマ数字5、1-13-25)


 山西は恐ろしいので翌日から外出をやめて、家の中に小さくなりながら、店へ執(と)っている二三種の新聞に眼をとおしたり、我家(うち)へ来る客の話に耳を傾けたりして、己(じぶん)の追い込んだような結果になった水死の小女(こむすめ)の噂に注意していたが、四五日してもそんな噂はなかった。彼はやや安心して、それは死骸が海の方へ流れて往ったので、それで判らなくなったのだろう、そうなれば別に心配することもないと思いだした。それに身の周囲(まわり)に気をつけて見ると、夜も昼も出歩いて女を漁(あさ)っていた者が、急に家に引籠(ひきこも)っているのが、人の嫌疑を増すようにも思われて来たので、六日目の夜(よ)になって怖(こわ)ごわ外へ出た。
 そして、歩いているうちに千束町(せんぞくちょう)の造花屋のことを思いだしたので、仁王門(におうもん)から入って公園の中を横切り、猿之助横丁(えんのすけよこちょう)と云われている路次(ろじ)の中へ往った。路次の中へ路次が通じて迷図(めいず)のように紛糾した処には、一二年前まで私娼のいた竹格子(たけごうし)の附いた小家(こいえ)が雑然と簷(のき)を並べていたが、今は皆禁止せられて、僅(わず)かに残った家は、造花屋と云う怪しい看板をかけて店の小棚(こだな)に種種(いろいろ)の造花を並べていた。
 山西の往こうとする処は、路次から路次に曲って二三軒往った処であった。その角(かど)には赤い提燈(ちょうちん)を釣るしたおでん屋があった。一時間ばかり宵闇(よいやみ)をこしらえて出た赤い月の光がその簷にあった。山西はここで一つ景気をつけたいと思ったので、その暖簾(のれん)に首を突っ込んだ。学生風の男が一人おでんを喫(く)っていた。
「一本つけて貰おうか」と、山西は顔馴染(かおなじみ)の老人の顔を見て云った。
 老人は右の棚から壜入(びんいり)の酒をとってその口を開け、それを背後(うしろ)の方へやって、「ほい、お燗(かん)だ」と云った。
 そこには銅壺(どうこ)を据(す)えた長火鉢(ながひばち)があって、これまでついぞ見たことのない小女(こむすめ)が坐っていた。
「あいよ」小女(こむすめ)は手早く老人の出した壜を執(と)って銅壺の中へ浸(つ)けた。
「お肴(さかな)は何にしましょう」と、老人は長い箸を持ちながら云った。
「烏賊(いか)があるなら、烏賊をもらおうか」
「烏賊はおあいにくさま、がんもどきならありますが」
「じゃ、がんもどきと、はんぺんにしてもらおう」
 老人が鍋の中からがんもどきとはんぺんを挟んで山西の前へ出し、それから盃(さかずき)も出したところで、もうお燗が出来た。山西は台の上に俯向(うつむ)いて、肴を喫(く)い酒を飲んだが酒はすぐ無くなった。
「お爺さん、酒のかわりだ」
 老人は新香(しんこう)をちょきちょき切っていた。彼はちょっと手が放せないので、背後(うしろ)を揮(ふ)り返るようにして云った。
「……みなわ、お酒のおかわりだ、乃公(おれ)はちょっと手が放せない、お前が執(と)ってくれ」
 みなわ、と云った詞(ことば)に、山西はびっくりして蒸気(ゆげ)の濛濛(もうもう)と立っている鍋越しに小女(こむすめ)の方を見た。小女(こむすめ)は起(た)って棚の方へ往こうとして、ちらりと客の方を見て笑った。それは眼と眉の間の晴ばれとした、そして、眼にしっとりとした潤(うるお)いのある水の中へ飛びこんだ彼(か)の小女(こむすめ)であった。その羽織(はおり)も鮮麗(あざやか)な青光(あおびかり)のする友禅(ゆうぜん)模様の羽織(はおり)であった。彼は箸を執(と)り落した。
「お爺さん、もう好い、いくらだ」と、彼は慄(ふる)えながら云った。
「じゃ、お酒はよしますか」
「好い、好い、いくらだ」
「二十銭戴(いただ)きます」
 山西は手を顫(ふる)わして蟇口(がまぐち)から十銭札(さつ)を二枚出すと、投げるように置いてあたふたと逃げだした。そして、造花屋のことなどは忘れて、人通りの多い賑(にぎ)やかな方へ賑やかな方へと往ったが、気が顛倒(てんとう)しているので方角が判らない。同じ路次(ろじ)へ入ったり出たりした後(のち)に、やっと人通りの多い賑やかな街路(とおり)へ出て、やや心を落つけることができた。……それにしても、水の中へ飛びこんだ女が己(じぶん)の前に姿を見せるのは、たしかに己に恨みがあるからだ、と思った。彼はたまらなく恐ろしかった。
 と、電燈の明るいバーが眼に注(つ)いた。彼は急いでその中へ入った。二条(ふたすじ)か三条(みすじ)かに寒水石(かんすいせき)の食卓(テーブル)を据(す)えた店には、数多(たくさん)の客が立て込んでいた。彼はその右側へ往って腰をかけた。
「何人(たれ)か来てください、お客さんですよ」
 左側の一人の客の前へ立って会計をしていた給仕女が、帳場(ちょうば)の方を見ながら云った。と、一人の給仕女がどこからともなく来て山西の前へ立った。
「何を持ってまいりましょう」
「ビールを持って来てもらおう」山西はそう云い云い女の顔を見た。それは眼と眉の間の晴ばれとした今の小女(こむすめ)の顔であった。山西の頭には血が登った。彼はいきなり起(た)ちあがって戸外(そと)へ逃げだした。
「おい、どうした、何をそんなにきょときょとしているのだ」と背後(うしろ)から来て肩に手をかけた者があった。
 山西はびっくりして立ちどまった。手をかけた者は岩本であった。
「ばかにびくびくしてるが、また、何かやったのかい」と、岩本は笑った。
 山西は黙ってきょときょとした眼を岩本の顔へやった。
「どうした、奥山(おくやま)の狐(きつね)にでもつままれたのか」と、岩本はまた笑った。
 山西はやっと気が注(つ)いて来た。
「なに、すこし、心配筋(しんぱいすじ)があってね」と、冗談を云ったが、その声は咽喉(のど)にひっかかって聞えた。
「まァ好いや、×××バーに往こう」
 岩本が云うと山西は×××バーなら大丈夫だろう、と思った。二人は伴(つ)れだって区役所の傍へ往ったが、山西はまだ安心のできないところがあるので、前(さき)へ立ってバーの入口が入れなかった。彼は岩本の後(うしろ)から怖(こわ)ごわ入って、四五人いる給仕女の顔を一わたり見廻したが、平生(いつも)のとおりの知己(しりあい)の女ばかりで、べつに怪しい顔は見えなかった。
「なにをそんなに、きょろきょろ見ているのだ」
 岩本に注意せられて山西ははじめて腰をかけた。
「ビールにしようか」と、岩本が云った。
「俺はウイスキーにする」山西はうんと酔って心を大きく持ちたかった。
 やがて岩本の前にビールが来、山西の前にウイスキーが来た。
「四五日見えなかったが、どうしていたのだ」
「店がいそがしいものだから出なかった」
「いやに殊勝(しゅしょう)なことを云うぜ、また、刑事から注意でもせられたのだろう、駒形堂(こまがたどう)の傍の船板塀(ふないたべい)とか何(な)んとか、変なことを云ってたから……」
「いや、ほんとうに店がいそがしかったよ」
「いやに弁解するところを見ると、お目出たくないことがきっとあったね」
 山西はこんなことから罪悪が発覚してはならないと思ったので、極力弁解した。
「ますます弁解が苦しいが、朋友(ともだち)の交誼(よしみ)に、店がいそがしかったと云うことにしておいてやろう」と、岩本は始終(しょっちゅう)笑っていた。
「山西さん、お客さんですよ」と、給仕女の呼ぶ声がした。
 山西はびっくりして顔をあげた。入口の処に小間使(こまづかい)風の壮(わか)い女が用ありそうに立っていた。山西はまた怪しい小女(こむすめ)ではないかと思って好く見たが、それは十八九に見える円顔(まるがお)の女であった。
「山西さん、貴郎(あなた)よ」と、給仕女が延びあがるようにして山西を見た。
 ……あの妾(めかけ)からではあるまいか、と山西はおもった。彼は急いで椅子を離れて入口の方へ往って、女の顔を見て立った。
「貴郎は、山西時次(ときじ)さんでございましょうか」と、女が笑顔をした。
「そうです、私が山西時次ですが」と、山西は云った。
 女はそれを聞くと静(しずか)に懐(ふところ)から青い封筒の手紙をだして、それを差しだした。
「これを御覧になって、すぐ御返事をいただきとうございます」
 山西は封を切って読んだ。……いろいろお話いたしたいことがございますから、使(つかい)の者とごいっしょに、眼だたないようにそっとお出(い)でを願います……などと書いてあった。それは駒形(こまがた)の女から来たものであった。
「じゃ、ちょっと待っていてください、あすこをすまして来ますから」と、山西は己(じぶん)の席へ帰って往って、眼を円(まる)くして見ていた岩本の耳元で囁(ささや)いた。「ちょっと出かけるから、後(あと)でいっしょに払っといてくれ」と、彼は蟇口(がまぐち)から五十銭札を二枚出した。
「いよいよ駒形か」と、岩本は羨(うらや)ましそうに聞いた。
「まあ、そこらあたりさ」山西はさっさと往って女といっしょに出て往った。
 岩本は羨ましいうえに好奇(ものずき)も手伝って、どこへ往くか見たくなったので、己も急いで山西の置いて往った金に幾等(いくら)かの金を足して、食卓(テーブル)の上へ投げだして、
「おい、ここに一円二十銭ある、足りなかったら翌日(あす)の晩だ」と、云って急いで戸外(そと)へ出た。
 戸外(そと)には靄(もや)が出て月の光がぼやけていた。岩本は駒形と云うので、先(ま)ずバーの前を右の方へ往って見ると、十間(けん)ばかり前(さき)を女と山西が並んで何か話しながら歩いていた。女は小柄な青い友禅(ゆうぜん)模様の羽織(はおり)を着ていた。……小間使にしては※(「女+朱」、第3水準1-15-80)(きれい)な女だぞ、と彼は思った。
 二人は広小路(ひろこうじ)へ出ると、電車通を横切って、むこう側の歩道を駒形の方へ曲って往った。岩本も十間ばかりの距離を置いてその後(あと)から跟(つ)いて往った。灰白色(かいはくしょく)の靄(もや)が女の姿を折おり包んで見えた。
 駒形堂の前まで往くと、二人は電車の線路を足早に横切って堂の手前からおりて往った。岩本は知られないようにつけながら、……いよいよあの女らしいが、彼奴(あいつ)どうしてものにしたろう、と、羨(うらや)ましくてたまらなかった。
 二人は裏通(うらどおり)に出て左の方へ五六間(けん)戻ったが、黒い裏門らしい扉をあけて山西の姿が前(さき)にかくれた。女は半身(はんしん)を入れて門の扉を締めながら、白い小さな顔を岩本の方へ見せて隠れた。……畜生(ちくしょう)、いよいよ入りやがったな、と舌打(したうち)しながらその方へ歩いて往った。船板塀(ふないたべい)をした二階家があって、耳門(くぐり)にした本門(ほんもん)の簷口(のきぐち)に小さな軒燈(けんとう)が点(とも)り、その脇の方に「山口はな」と云う女名前の表札がかかっていた。……俺もただは見逃さないぞ、と、岩本は表札の文字(もんじ)を二度も三度も読みかえした。

※(ローマ数字6、1-13-26)


 それから五六日して、山西の母親は千束町(せんぞくちょう)の岩本の家へ来て伜(せがれ)がいなくなったと云った。家を出た日を聞いてみると、それは駒形の女の家へ往った晩であった。岩本はしかたなくその夜(よ)の事情を話して二人で駒形の山口はなと云う家へ往った。
 婆やらしい年とった女が取次に出て、その後(あと)から二十五六に見える円髷(まるまげ)の女主人(おんなあるじ)が出て来た。
「伜がこちら様へあがっておりはしますまいか」と、母親は云った。
「伜って、どなたですか」と、女主人(おんなあるじ)は不審そうに云った。
「山西時次でございます」
「……山西時次……、そんなかたは知りませんでございます」
「そうでございましょうか、四五日前から伜(せがれ)がいなくなりましたから、ここにいらっしゃる伜のお朋友(ともだち)の、岩本さんに聞きますと、伜のいなくなった晩に、×××バーにいた伜の処へ、こちらのお婢(じょちゅう)さんが見えて、伜を伴(つ)れて往かれましたのを、この岩本さんが、好奇(ものずき)につけて来て、裏門からたしかに入るのを見たと申しますから」
 女主人(おんなあるじ)は呆(あき)れたようにして聞いていたが、
「それは何かのまちがいじゃありますまいか、裏門から人をお伴れするにしても、私の家の裏門は、河に向っておりますので、船からでなくちゃ入れませんし、そして、我家(うち)の婢と云うのは、どんな女でしたでしょう」と、岩本の方を向いて云った。
「十六七の色の白い、友禅(ゆうぜん)模様のような羽織(はおり)を着ておりました」と岩本が云った。
「……そう、それじゃ、いよいよ私の家じゃありません、私の家には、今お取次した、婆やより他に、婢を置いたことがありません」と、女主人(おんなあるじ)は云いきった。
 二人はつぎほがないのですごすごとそこを出たが、二人の裏門を入る姿をまざまざと見ている岩本は、どうも腑(ふ)に落ちないので、門の左側になった裏門らしい処へ往ってみた。コールタで塗った門の扉がたしかにあるので、そっと手をかけてみると扉の枢(くるま)はすぐ落ちた。そこはその傍の問屋(といや)の荷揚場(にあげば)らしい処で、左側に山口家の船板塀(ふないたべい)があり、右側に隣の家の煉瓦塀(れんがべい)があった。二人はその中へ入って往った。
 行詰(ゆきづめ)に石垣に寄せて縁側(えんがわ)のようにした一幅(ひとはば)の桟橋(さんばし)がかかっていて、その下には大川の水が物の秘密を包んでいるように満満(まんまん)と湛(たた)えていた。二人は河の面(おもて)を見入った後(のち)に黙って顔を見合して衝立(つった)った。

 それから間もなく奇怪な水魔(すいま)の噂がつたわるようになった。
 山西の行方(ゆくえ)は今に判らないと云うことであるが、恐らく永久に判らないだろう。





底本:「日本怪談大全 第二巻 幽霊の館」国書刊行会
   1995(平成7)年8月2日初版第1刷発行
底本の親本:「日本怪談全集 第一巻」改造社
   1934(昭和9)年
入力:川山隆
校正:門田裕志
2012年5月22日作成
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